ローバー400SLIが車検です。
一年間で6千キロあまり走りました。
ほとんどが実家への通勤?ですが、結構気に入ってきました。
ハンドリングは重くて、低速での切り返しはちょっと女性にはしんどいでしょうね。
でも走行中のハンドルの安定感は抜群です。
固めのサスペンションも、重いハンドルとあいまって、コーナリングはなんとなく楽しい設定です。
見た目はおとなしいセダンなのですが、その中身は結構スポーティなのです。
オートマのシフトチェンジのショックが大きいのは、やはり欠点でしょうねえ。
それ以外に大きな欠点は見当たりません。一人で走ることが多い私には、1600ccの排気量もぴったりですし、さしたる不満は今のところ見当たりません。
しばらくはこのローバーにお世話になりそうです。
ところで、車検で借りた代車はBMW318iでした。
初期型ですので、十数年前の車で走行距離も14万キロを越えていました。
内装はさすがにくたびれていましたが、ハンドリングやサスペンションはまったく年齢を感じさせません。
ドアーを閉める音も、バシンと機密性の良い高級な音がします。
さすがにBMWと感心しました。
アクセルはローバーに比べるとややふわふわした感覚ですが、エンジンは非常にスムーズで、ローバーが多少荒々しい表現とすれば、BMWは上品な感覚です。
ハンドリングも軽くて優しい雰囲気です。
全体的にやはり高級な上品さを感じました。
排気量は1800ccでBMWには珍しく5ナンバーです。
車体のサイズはほとんどローバーと同じといえます。
BMWとローバーを比べてみると、結構ローバーがとがった車のなのだと感じてしまいます。
BMWも国産車に比べれば(といっても高級国産車は知りませんが)ハンドリングはやや重くサスペンションも固めと感じるのですが、ローバーに比べるとやはりおとなしいのです。
乗り心地が良いので、大迫ダムまでドライブしてきました。
写真はそこで携帯で撮影したものです。
走っているときにボクサーエンジンの音が気持ちよく聞こえるのは、そういう設定にされているからなのでしょう。
BGMを掛けるよりも、ついエンジンの音を聞いていたいと思ってしまうのです。
当時の新車価格がローバーの1.5倍もするBMW318iですから、高級感はあって当然ですね。
まあ私は身の丈に合ったローバーで当分の間楽しませてもらいます。![]()
「でもこのままじゃあいけないって分かってるわ。ただどうしていいか分からなくて、君のことも気になって、本当に心が壊れそうだった」
少し痩せて目に隈を浮かべた先生のその言葉は、現実味があった。ただ征夫はまだ口にする言葉を思いつかなかった。
先生は何かに憑かれたように、そして自分を説得するように話し続けた。
「でもね、自分を責めないで、ありのままの自分を受け入れようと思った時、すっと気持ちが楽になったの。でもそれが今の状況を肯定することにはならないけどね」
征夫は何か言わないといけないと思った。ただ思考はまとまらず声に出す言葉にならなかった。
牧先生は窓際で振り向くと、征夫を見つめて言った。
「本当のことを話したわ。世間には認められないことだけど、そういうことをしてしまった自分を受け入れようと思うの。漉成君の意見を聞きたいな」
優しい牧先生の視線が素敵だと思った。本当のことを話してくれたことがうれしかった。しかし言葉は続かない。
「ショッキングな話題です。俺、ちょっとついていけません」
牧先生は穏やかな表情を取り戻して応える。
「でも出会ったときから感じてたんでしょう」
征夫は正直に知らなかったと言おうと思った。その時、久しぶりに、自信とプライドを持った以前の自分が心の中に返ってきた。
「いろんな人がいるから、先生も別に悪いことじゃないと思うけど」
平凡なその言葉で全てを包み込んだ自分の思いやりに、征夫は満足した。これ以上先生の心に波風を立てたくなかった。
「俺、先生に憧れてたんだけど…。でも先生がそうなら、しょうがないと思う。先生の苦しみは俺にはわからないかもしれないけど、でも悪いことをしているとは思わない、本当に柳井のことが好きなら…」
最後の言葉を口にしたとき、胸の中で激しい嫉妬が渦巻いた。あの柳井に牧先生を奪われてしまったのだと。
ただ、底なしの深い穴に落ち込んでいた心は、少しずつ元気を取り戻している気がした。先生の誤解を自分の心に飲み込むことで、自信が少しずつ膨らんでくるのが分かった。
「先生、俺、誰にも言わないから」
牧先生はまた優しい笑みを浮かべた。
「ありがとう、でもやっぱりこのままじゃいけないわ…」
自分に言い聞かせるように呟いた先生は、また来るわと言うと、甘い香りを残して帰って行った。まだ征夫が学校に行く気持ちになっていないのを見透かしたように。
続く
先生の言葉の意味が、征夫には良く分からなかった。ただ先生の胸に抱かれたまま、むせるようなその甘い香りとどこかで出会った気がした。
「あのときは本当にびっくりしたわ。どうしていいか分からなくて、とにかく知らん振りをして通り過ぎたの。出来れば見つからないことを願ってね」
牧先生の呟きが何のことなのか征夫には分からない。
「でもあの時から不安な日々が始まったの。見つかっていたらどうしよう。いや本当は見つかっていないのかも知れないって。疑心暗鬼になって、それだけでも自分の心が壊れていく気がしたわ」
先生はいったい何の話をしているのだろうと征夫は思った。その話の続きに興味を抱いた。そして先生の胸で次の言葉を静かに待った。
「教室で君の視線ではっきりと分かったの。やはり見つかっていたんだって。そしてそのことで君の心に大きな負担を掛けてるんだってことがね」
征夫の頭を抱いたまま先生は大きくため息をついた。先生の胸が小さく揺れて甘い香りが広がった。その時、征夫はその甘い香りとの出会いをはっきりと思い出した。隣町で柳井とすれ違ったときに漂っていた香りに違いなかった。
すると今まで先生が話していた言葉の意味が、謎解きの様にすらすらと理解できてきた。そうして先生が最初に言った言葉の意味が、信じがたい現実となって征夫に迫った。
「ごめんね。私、男性はだめなの」
先生は最初からサングラスを掛けた征夫をはっきりと見抜いていたのだ。そして自分の秘密を言いふらされる恐怖に怯えていたのかも知れない。噂は広がらなかったものの、征夫が体調を崩して登校拒否になった原因が、自分と出会った結果だと自分を責め続けていたに違いない。
先生の苦しみが分かり始めると、その分自分の苦しみが減っていくように、征夫は気持ちが楽になった。
先生は征夫からゆっくりと離れると、窓際から外に視線を浮かべて、話を続けた。
「子供のころからそうだった。男の子には嫌悪感しか抱かなかったけれど、女の子には凄く興味があって、好きな子のことは夜も眠れないほど思い焦がれるの。でも子供のころはあまりにもその思いがストレートだから、すぐに相手から嫌われ始めたけどね」
窓の外を見つめたまま、先生は自嘲気味の笑みを浮かべた。征夫は話す糸口を見つけられなかった。信じられない話が、どんどん展開していく現実についていけなかった。
続く